ライアー=Leier(ドイツ語)=Lyre リラ(英語)=竪琴(日本語)

 

生まれた背景

神話をテーマにした西洋絵画にも登場する竪琴。その歴史は、なんと古代ギリシャ時代(紀元前8から4世紀)まで遡ることができます。世界に広がりながら、その土地に根付いて改良・発展していったもの、姿を消してしまったものもあるのでしょう。
さて、これからお話しする竪琴はその歴史の潮流とは異なる、新しい竪琴です。

ライアーは、ルドルフ・シュタイナー(1861〜1925)という思想家の影響を受けた、音楽家エドモンド・プラハト(1898〜1974)、彫刻家ローター・ゲルトナー(1902〜1979)という二人の青年によって1926年にスイスで新しく生み出された現代の竪琴です。
ピアニストでもあったプラハトは、療育の現場において、繊細で感覚的に敏感な子供にとって、ピアノの音は刺激が強すぎると感じていました。何か適した楽器を、と模索する中で誕生した楽器なのです。

ドイツを中心に、シュタイナー学校の教師、音楽療法家の間でひっそりと用いられていたライアーでしたが、やがて純粋に、音楽、演奏を楽しまれるようにもなりました。

日本では、2001年に公開された映画、千と千尋の神隠しの主題歌、【いつも何度でも】をライアーで弾き歌いされた木村弓さんの存在で広く知られるようになりました。

膝に乗せて演奏するライアーのフォルム、そしてなんといってもそのやさしい音色に魅せられ、ライアーをこよなく愛する人々が、日本には少なからずいるのです。

 

ライアーの種類

1台1台手仕事で作られるライアーは、工房によって個性があり、音色や形状も異なります。
工房はドイツ、スイス、スウェーデン、オーストラリアなど。そして日本にもあります。
種類はソプラノ、アルト、テノールなど、音域、弦の数も23弦から40弦以上と様々です。

ライアー製作者は、より良い理想の響きを求めて、こだわりと信念を持って製作していきます。
量産できないので、欲しい時にすぐに手に入ることは稀で、数ヶ月、物によっては年単位で待ち続けてようやく手にすることが出来る…かと思えば、タイミングよく在庫があったり、思いがけずライアーを弾いていた方からお譲りいただくお話がきたり…とご縁でやってくることもあります。

私が現在弾いているライアーをいくつかご紹介します。

 

マリーライト製(オーストラリア)41弦ソプラノライアー
ご縁がありお譲りいただいたライアーです。この楽器は製造数も少なく、残念ながら現在は製作されておりません。まさか自分が手に出来るとは思ってもみなかったので、お話があったときは本当に驚きました。
演奏の為に作られたので音量が豊か、自分の身体に響きがしっかり振動します。
シャボン玉の膜が光に反射して色合いを変えるような、玉虫色のような、本当に美しい音色です。

 

マーティンニース製(独)39弦ソプラノオープンライアー
共鳴板がなく、1枚板をくり抜いて作ったライアーをオープンライアーと言います。弦は固く張ってあります。すっと耳をそば立てたくなるような、決して大きな音ではないのですが、力強さもあるように感じ。弾いていると、とても静かな気持ちになるライアーです。ニレの木の良い香りもします。

 

ザーレム製(独)35弦小型アルトライアー
サクラ、ヤナギ、メープルの木が使われており、木目がとっても綺麗です。小型ながら余韻が長くしっかりと響きます。柔らかく、たくさんの色を含んだ音色で、即興で思いのままに、いつまででも弾いていたくなるライアーです。

 

奏法

膝の上に乗せ、左腕で支えながら、左右の指の腹を弦にのせて、圧をかけつつ手前の弦に着地という動作を繰り返して演奏します。はじく、爪弾く奏法ではないので爪は短く切ります。単音も和音も出すことができます。

一般的に、楽器は基準音のラの音を440〜444Hzに合わせることが多いのですが、ライアーは、432Hzに調弦をします。Hz(ヘルツ)とは、1秒間に振動する音の波の数です。高い基準音では、高揚感や華やかさ、低い基準音では安らぎ、穏やかさが感じられると言われています。
ちなみに、他の楽器と合わせる時には、440Hzに調弦することも可能です。

ライアーはピアノのようにあらかじめ調弦をして音を出す楽器です。弦楽器や管楽器のように、音を出すまでの苦労はないのですが、本当に美しい深い音色に育てていくのには、耳をすませてじっくり、ゆっくりと取り組むことが大切だと思います。

 

ライアーとの出会い

私がライアーを弾くようになったのは2020年とつい最近のことです。木村弓さんのいつも何度でもで知ってはいたものの、きっかけとなったのは2018年頃のことでした。

セレモニー演奏の仕事をメインにしていたので、ゆったりとした温かい、やさしい音色や楽曲に、常日頃アンテナを張っていた中、ライアーを演奏する動画にたまたま辿り着きました。
「こういう音楽、楽器もあるのねぇ…」で通り過ぎつつ、少し何か心にひっかかるものがありました。
癒し、ヒーリングという言葉が苦手な私は、一括りにヒーリング=ライアーとされていたことに違和感を感じていたのかも知れません。

時を置いて2020年。世界的に厳しい制限のある時代に突入していた夏、おすすめ動画にあの時の動画が上がってきたのです。あー、これは確か以前に…など思いながら視聴。この時はすんなりと「私も弾きたい」、正確にいうと「私の楽器だ!」と強く思っていたのでした。

秋になり国産のライアーを購入。最初は見ようみまねで数ヶ月。年が明けて2021年にレッスンに通い始めます。
そこから知られざるライアーの世界にすっかりはまり、今ではライアーを弾くために今までの音楽経験がある!とすら思う毎日です。

ライアーは静かで正直な楽器です。自分の心のちょっとした動きがものすごくダイレクトに反映されます。
音の行方を静かに無心に聴くことの大切さ。どんな楽器演奏にも言えることかも知れませんが…

たったの1音が、この上なく美しい音色となって心に届く、まさに琴線に触れる、そういう楽器だと思います。

ライアーの音色から感じるもの
透明感 静けさ 温かさ 清らかさ…